【News】ナフサ不足で変わる店頭。地政学リスクがあばく、TCFD開示企業の「真の即応力」
日経新聞を読んで気になった記事があったので、読み込んでみました。
日本の企業はTCFDに沿って自社グループのサプライチェーンリスクの特定や、TNFDに沿って自然への依存や影響の分析や評価をしている企業が世界最多です。一方で、なかなか脱プラが進まなかったり、リスク対策の大きな動きは少なかったのが事実です。今回、ナフサ不足を経験して、店頭での包装が変わるというニュースを見つけました。
各社の有事の際の対応を見ると、サプライチェーンに関するリスクやについて社内で議論があったからこそ、すぐに対応できたのではと分析しました。
■ 3分でわかる今回のニュース
[ナフサ不足で変わる店頭 ヨーカ堂、刺し身の蓋をプラからラップに]
現在、中東情勢の悪化による「ナフサ(粗製ガソリン)不足」と「インキ供給不足の懸念」が、日本の小売り大手の店頭を激変させています 。原材料高騰や供給制限という「外圧」に対し、各社は値上げを回避するための限界突破の企業努力に踏み切りました 。
- イトーヨーカドー: 5月下旬から、刺し身やむきエビのプラスチック製の蓋を「ラップ」に変更 。食品トレーを色付きから「無色(白)」に変えてインキを削減するほか、焼き鳥などもパック詰めから「紙袋へのばら売り」へ変更 。
- ファミリーマート: 今夏から、PB「ファミマル」のサンドイッチ等のパッケージにあるブランドロゴを、複数色から「白黒」に変更してインキ使用量を削減 。弁当容器のレイアウト共通化も検討 。
- イオン: PB「トップバリュ」のカニかまでトレー包装を廃止し、プラ使用量を43%削減 。夏発売のそばでも薬味を省き、つゆカップを無くすなど容器を簡素化 。
- 深刻な格差: 独自の倉庫を持たず在庫確保ができない「中小スーパー」にはこれらの対策余地が少なく、今後大手との間で対応格差がさらに広がる懸念も 。
これまでは「環境配慮のポーズ」として語られがちだった脱プラ・減プラが、「物資が手に入らないから、削るしかない」という企業の生存戦略へと完全にフェーズが変わっています 。
■ 社内議論だけではダメだった、地政学リスクという「最強の強制力」
環境戦略と都市開発の実務的な視点から、このドラスティックな変化の裏にある本質を2つのポイントで読み解きます。
① コロナ禍の「強制IT化」との共通点
少し前まで、日本の多くの企業は「在宅勤務やペーパーレスなんて、やりすぎ・現実的じゃない」と本音では思っていました。しかし、コロナという巨大な危機によって一晩で強制的にIT化が進みました。 今回のナフサ不足も全く同じ構造です。「刺し身の蓋をラップにする」「ロゴを白黒にする」といったドラスティックな変更は、平時なら「ブランドイメージが落ちる」「顧客満足度が下がる」と社内で猛反対され、絶対に潰されていた計画です 。しかし、「地政学リスクによる物理的な供給途絶」という抗えない外圧が、企業の変革スピードを一気に数年分加速させています 。
② TCFD・TNFDを開示していた企業が、なぜ「今まで動かなかった」のか?
多くの大企業がTCFD(気候変動)やTNFD(自然資本)のレポートを綺麗に開示し、「サプライチェーンのリスクを把握・管理しています」と市場にアピールしてきました。それなのに、なぜ実際の店頭やパッケージはこれまで変わらなかったのでしょうか。
理由は明白です。平時にリスクを見越して先回りで動こうとしても、「代替包材の手間」や「コスト(リサイクル材や資材変更に伴う初期投資)」との折り合いがつかず、社内の投資判断(ROI)が通らなかったからです。「頭では分かっているけれど、今動くと(平時の市場原理では)損をする」というジレンマに縛られていたと言えます。
■ 「すぐ動ける企業」と「フリーズする企業」の決定的な差
しかし、今回のナフサショックのような有事が起きた瞬間、企業の明暗は真っ二つに分かれます。
ニュースに登場するイオンやヨーカドーのように、危機に対して「即座に」容器の構造を簡素化したり、ばら売りに切り替えたりできる企業は、単にその場の思いつきで動いているわけではありません 。 あらかじめサプライチェーンのリスクを特定し、「いざ供給が止まったら、どの資材を削り、どう代替するか」のシミュレーションとテストを、裏で冷徹に終わらせていた企業です 。
平時には「コストが合わない」「時期尚早」と却下され、棚上げになっていた代替案(仕組み)が、有事になった瞬間に「価格維持と安定供給のための強力な武器」として最優先で引っ張り出されてくる。
リスクを特定し、TCFDやTNFDを開示しておく本当の意味は、平時に投資家から満点を貰うためではありません。「有事というゲームが始まった瞬間、フリーズせずに即座にスタートダッシュを決めて競合を突き放すため」だったことが、今回の店頭の激変で証明されました。
■ まとめ:開示(ペーパーワーク)を「本物のレジリエンス」へ
「環境に優しいから」ではなく、「そうしなければ製品を店頭に並べられないから」包材を削る 。これこそが、サステナビリティの実装現場で起きている地殻変動のリアルです。
TCFDやTNFDを単なる「提出書類」のペーパーワークで終わらせている企業は、今後次々とやってくる地政学リスクの波に飲まれるでしょう。自社のリスク特定を有事の「実装力」にまで昇華できているか、今、すべての企業のレジリエンスが試されています。
(出典・参考:日本経済新聞)
