業績悪化でも「脱サステナ」を拒むグッチ親会社ケリング。環境先進企業のプライドと、日本企業が直面する「不都合な真実」
One Stop ESGという海外メディアを読んでいて気になったニュースを取り上げました。原文が英語のものもかみ砕いて解説します。今回はこちら「再生と責任あるラグジュアリー(Recon Kering and Responsible Luxury)」
■ 3分でわかる今回のニュース
要約「再生と責任あるラグジュアリー(Recon Kering and Responsible Luxury)」
- 深刻な業績悪化: 主力ブランドの販売不振により、現在ケリングはビジネス規模の縮小に直面している。
- 妥協なき宣言: 普通なら真っ先に削られる環境予算に対し、同社の環境責任者は「サステナビリティの取り組みは『ノンネゴ(絶対に妥協も交渉もしない領域)』である」と明言。
- ビジネスの背骨: 環境対応を「景気が良い時だけやるコスト」ではなく、「ブランドがラグジュアリーであり続けるための根幹」として会社の仕組みに完全に埋め込んでいる姿勢を示した。
今、欧米(特に)のビジネス界では「脱サステナ(アンチESG)」の逆風が吹いています。特にアメリカでのトランプ政権の誕生や、世界的なインフレによる景気後退を背景に、多くの企業が「これ以上環境対策にコストをかけられない」と、これまでの華やかなサステナ目標を次々と撤回・トーンダウンさせているのが世界のリアルな現状です。
そんな冷え切った空気の中、グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどの世界的ハイブランドを擁する巨大ファッション実業グループ「ケリング(Kering)」が、市場のトレンドに真っ向から反する強烈な方針を打ち出しました。
海外メディア『One Stop ESG』の報道によると、ケリングは現在、主力のグッチの販売不振などによって深刻な業績悪化(ビジネス規模の縮小)に直面しています。普通企業なら、真っ先に「お金のかかる環境部門の予算」を削りたくなるところです。
しかし、同社のチーフ・サステナビリティ・オフィサー(環境責任者)であるマリー=クレール・ダヴー氏はこう宣言しました。 「業績がどれだけ厳しかろうと、サステナビリティの取り組みは『ノンネゴ(絶対に妥協も交渉もしない領域)』である」と。
つまりケリングは、環境対応を「景気が良い時だけやるボランティア(コスト)」ではなく、「ブランドがラグジュアリーであり続けるための背骨(根幹)」として、会社の仕組み自体に完全に埋め込んでいるため、業績悪化を理由にやめる選択肢などそもそも存在しない、という姿勢を明確に示したのです。
世界のトップランナーが放ったこの「意地の宣言」は、今のファッション業界、そして環境実務に関わるすべての人々に、「本当の持続可能性とは何か」を突きつける大きな一石となっています。
世界のトップランナーが放ったこの意地の宣言は、ファッション業界に「本当の持続可能性とは何か」を強く突きつけています
■ このニュースの裏にある「4つの矛盾と葛藤」
アパレル業界の担当者として、この発表を美談で終わらせてはいけません。ここには、現代のESG経営が抱えるリアルな矛盾が隠されています。
- ① ICP(社内炭素価格)が進まなくなるリスク ケリングは環境負荷を「ユーロ」に換算して経営判断する最先端の仕組み(EP&L)を導入している。しかし、仕組みをガチガチに固めているからこそ、業績悪化時にも環境コストを削れない「自縄自縛」に陥っているとも言える。これを見ると他の企業も「業績が悪いときに身動きが取れなくなるなら、ICPなんて導入したくない」と躊躇してしまう皮肉な原因になりかねない。
- ② 環境の優等生「トリプルA」と「業績悪化」の不都合な真実 ケリングは環境格付け(CDP)で「トリプルA」(「気候変動」「水セキュリティ」「森林」の各分野で最高ランクAを取得すること)を獲得しているが、「ESG評価が高い企業ほど儲かる」という定説の逆を行く業績低迷が続く。実は、彼らの現在のCO2排出量が減っている最大の理由は環境対策の成果ではなく、「単純に服が売れず、ビジネスの規模を縮小しているから」という冷酷なからくりがある。
- ③ ESG投資に振り切りすぎた企業の限界 「環境に配慮すればブランド価値が上がり、結果として儲かる」というシナリオは本当に維持できるのか。彼らの「プライド」と「業績」の葛藤が透けて見える。サステナビリティへのコストを維持したままV字回復できれば英雄だが、もし沈めば「理想にこだわって自滅した」という最悪のケーススタディになり得る。
- ④ 王者「LVMH(ルイ・ヴィトン)」との残酷な対比 ライバルLVMHはケリングほど「ESG第一主義」を全面に出さない。圧倒的なビジネスの強さ(売上)をベースに、資金力を活かしてスマートに環境対応を行っている。「ビジネスが強いからサステナもできるLVMH」と、「理想を追うあまりビジネスが苦しむケリング」。どちらが本当の持続可能性なのか、重い問いを突きつけている。
■ トランプの「脱環境」が上陸した時、日本企業はどう動く?
この欧米の「脱サステナの圧力」は、数年遅れて必ず日本の産業界にもやってきます。その時、日本の企業はどうリアクションするでしょうか。
- 「横並び」の撤退劇: ケリングのように、個社で「我が道を行く!」と突っ張る企業はなかなか現れないのではないか。
- しれ〜っと後退: 日本ビジネスの特性からして、おそらく「業界団体や経団連の様子を伺い、周りの足並みが揃ったのを確認してから、しれ〜っとサステナ目標をトーンダウンさせていく」のが関の山ではないか。一社が諦めれば雪崩を打つように後退するリスクを孕んでいるように感じています。
■ まとめ:綺麗事ではない「経営と環境の泥仕合」
ケリングの事例は、綺麗事だけでは済まない経営のリアルを教えてくれます。単に「グッチの会社がんばれ」で終わらせず、自社のビジネスモデルにどう環境を組み込むべきか、今こそ冷徹に考えるタイミングが来たと考えさせられます。
(出典・参考:One Stop ESG ReconKering and Responsible Luxury https://onestopesg.com/esg-news/kering-gucci-sustainability)
